「市場価値を高めたい」と考えたとき、多くの方はまず「どんなスキルを身につけるか」から考え始めるのではないでしょうか。資格、プログラミング、英語、マネジメント経験。どれも意味のある投資だと思います。
ただ、私自身が教育事業やIT業界で多くの方のキャリアを見てきた経験から言うと、市場価値は「何を持っているか」だけでなく「どこで、どんな役割で発揮しているか」によっても大きく変わるように感じています。同じような能力を持つ二人が、数年後にまったく違う評価を受けている場面を、何度も見てきました。
この記事では、市場価値とは何かという基本から、市場価値が高い人の特徴、自分の現在地を知る方法、そして高めるための具体的な方法までを整理します。そのうえで、あまり語られない「環境」という視点——市場価値=会社の成長 × フェーズ × 役割という考え方についてもお伝えします。あくまでひとつの見方として、参考にしていただければと思います。
結論:スキルと環境、両方の掛け算で考える
先に、この記事の要点をまとめます。市場価値を高めるうえで大切なのは、スキルや実績を磨くことと、それが評価され、さらに伸びる環境に身を置くことの両方だと考えています。
多くの記事は前者、つまり個人の能力開発を中心に語ります。それ自体は正しいのですが、実際のキャリアを見ていると、同じ努力をしていても環境によって結果が大きく変わるケースが少なくありません。成長している事業の中心的な役割にいる人は、難しい仕事の経験が自然と積み重なり、それがそのまま評価につながっていきます。一方で、停滞した事業の周辺的な役割にいると、能力があっても実績として語れる経験が積みにくい。
もちろん、環境がすべてを決めるわけではありません。厳しい環境でも力を伸ばす方はいますし、恵まれた環境でも成長が止まる方もいます。それでも、努力の効き方が環境によって変わるという事実は、キャリアを考えるうえで知っておく価値があると思っています。
そもそも市場価値とは何か
市場価値とは、労働市場においてあなたがどれだけ求められているかを表す考え方です。年収や役職は、その結果として表れる数字や肩書きにすぎません。
ここで押さえておきたいのは、市場価値が相対的で、需要と供給によって変わるものだという点です。どれだけ高度なスキルでも、それを必要とする企業が少なければ市場価値には結びつきにくく、逆に一見地味なスキルでも、担い手が少なく需要が大きければ高く評価されます。
つまり市場価値を考えることは、「誰が、どんな理由で、自分を必要とするのか」を考えることだと言い換えられます。自己評価だけで完結せず、外の世界がどう見るかを想像する視点が欠かせません。
「実力=能力 × 経験」という考え方
市場価値を語るとき、よく使われる整理に実力=能力 × 経験という式があります。論理的思考力やコミュニケーション力といった能力に、実際に成果を出した経験が掛け合わさって、その人の実力になるという考え方です。
この整理は分かりやすく、実感にも合っています。「20代は能力を磨き、30代は経験を積む」というアドバイスも、この式から導かれるものでしょう。基本の枠組みとして、押さえておく価値があると思います。
ただ、この式だけでは説明しきれない場面もあります。能力も努力量も大きく変わらない二人が、数年後にまったく違う市場価値になっていることがあるからです。その差はどこから生まれるのか。ひとつの答えとして考えているのが、次にお話しする「環境」の視点です。
市場価値 = 会社の成長 × フェーズ × 役割
リバナビでは、市場価値を次のように捉えています。
市場価値 = 会社の成長 × フェーズ × 役割
会社の成長は、その事業が伸びているかどうかです。伸びている事業では、任される仕事の難易度や裁量が上がりやすく、短期間で密度の高い経験が積める傾向があります。
フェーズは、立ち上げ期・拡大期・成熟期といった事業の段階です。ゼロから立ち上げる経験と、完成した仕組みを安定運用する経験では、身につく力の種類がかなり違います。どちらが優れているという話ではなく、自分が今どちらの経験を必要としているかという観点で見るとよいと思います。
役割は、その中でどれだけ中心的な意思決定に関わるかです。同じ会社にいても、担う役割によって見える景色も、積める経験もまったく異なります。
この3つが噛み合ったとき、成長が加速しやすくなる——というのが、これまで見てきた中での実感です。逆に、停滞した事業の・成熟しきったフェーズで・周辺的な役割にいる状態が続くと、経験が蓄積しにくくなる傾向があります。
なぜ環境が影響するのか
私は教育事業の会社で執行役員として経営に関わり、その後DMM.comのCOO室で新規事業開発やM&Aに携わってきました。多くの事業の立ち上がりと停滞を、内側から見てきたつもりです。
そこで感じたのは、伸びている事業に良い役割で入った方は、本人の能力から想像する以上のスピードで成長していくことが多いということでした。理由はシンプルで、成長している事業では新しい課題が次々に生まれるからです。前例のない判断を求められ、成果を出せば裁量が広がる。その一つひとつが、他では得にくい経験になります。
人材としての実績とは、突き詰めれば「難しい状況で成果を出した記録」の積み重ねです。そして、その「難しい状況」をどれだけ経験できるかは、環境によってかなり左右されます。だからこそ、転職やキャリア選択の場面で、会社の成長性・事業のフェーズ・自分に任される役割を見ることには意味があると考えています。
市場価値が高い人に見られる特徴
個人の側の特徴も整理しておきます。市場価値が高いと評価される方には、次のような傾向が見られることが多いようです。
- スキルを掛け合わせている:ひとつの専門性だけでなく、異なる領域を組み合わせることで希少性が生まれやすくなります
- 成果を数字とロジックで語れる:何をして、どんな成果が出たかを、再現性のある形で説明できます
- ポータブルスキルが高い:業界や職種が変わっても通用する、論理的思考・問題解決・人を巻き込む力を持っています
- 学び続けている:市場の変化に合わせて、必要なスキルを更新し続けています
- 環境を選んでいる:受け身ではなく、自分の力が伸びる場所を意識的に選んでいます
市場価値が伸び悩むときに見られる状況
逆に、能力はあるのに評価につながりにくいケースには、次のような状況が見られます。
- 特定の会社でしか通用しない業務知識に偏っている
- 成果は出しているが、言語化・可視化できていない
- 成熟した事業で、決まった業務を長く繰り返している
- 市場の変化を追わず、同じスキルに留まっている
ここで強調しておきたいのは、これらの多くが能力不足というより、環境や役割の問題である場合が少なくないということです。市場価値が上がらないと感じたとき、自分を責める前に「今いる場所は、自分の価値が育つ環境だろうか」と問い直してみる価値はあると思います。
自分の市場価値を知る3つの方法
高める前に、現在地を知ることが出発点になります。
- キャリアの棚卸しをする:これまでの経験・実績・スキルを書き出し、自分の強みを整理します
- 求人やスカウトで市場のニーズと照らす:どんな企業が、どんな条件で、自分に近い経歴の人材を求めているかを確認します
- 第三者の評価を受ける:転職エージェントや社外の知人など、利害の異なる相手からの評価を聞いてみます
自己評価と外部評価には、たいていズレがあります。そのズレ自体が、次に何を伸ばすべきかのヒントになることが多いように思います。
市場価値を高める具体的な方法
現在地が見えたら、次は高める番です。大きく「自分を磨く」と「環境を選ぶ」に分けて整理します。
自分を磨く
- 現職で成果を出す:まずは今の場所で、数字で語れる実績をつくることが土台になります
- ポータブルスキルを鍛える:どこでも通用する汎用的な力を優先して伸ばします
- 専門性を掛け合わせる:既存の強みに、相性のよいスキルを足して希少性を高めます
環境を選ぶ
- 成長している事業・フェーズに身を置く:自分の力が伸びやすい場所を選びます
- 中心的な役割を取りにいく:意思決定に関わる立場で、密度の高い経験を積みます
前半だけに力を注ぐ方が多いのですが、後半の環境選びを組み合わせたときに、伸び方が変わることがある——これが、私がこの記事で最もお伝えしたい点です。
20代・30代で意識したいことの違い
年代によって、優先順位は少し変わってきます。ひとつの目安として、20代は能力、30代は経験と言われることが多いようです。
20代は、論理的に考える力や問題を解く力といった土台をつくる時期にあたります。この時期にどんな環境で、どれだけ負荷のかかる経験を積めるかが、その後に影響してくると感じています。
30代は、その力を使って「何を成し遂げたか」を積む時期です。成長事業の中心的な役割を担えているかどうかが、市場価値の差につながりやすくなります。どちらの年代でも、環境の選択が土台にある点は共通しているように思います。
AI時代に、考え方はどう変わるか
AIの普及によって、定型的な作業の価値は下がり、AIを使いこなす力や、AIには任せにくい判断・巻き込みの力の価値が上がっていくと考えられます。
そしてAI時代においては、環境の重要性がさらに増すかもしれません。AIを取り入れて事業を変えている会社にいれば、その最前線の経験そのものが市場価値になります。一方、変化から距離を置いた環境では、努力しても実務での裏付けを持ちにくい。AI時代の市場価値も、どこで働くかの影響を受けやすいと見ています。
環境によって差がつく、3つのケース
抽象的な話が続いたので、実際にどのような形で差が表れるのか、よくあるパターンとして3つ挙げてみます。特定の個人の話ではなく、これまで見てきた傾向を一般化したものとして 読んでいただければと思います。
ケース1:同期入社の二人が、3年後に違う評価を受ける
新卒で同じ会社に入り、能力的にも大きな差がなかった二人。一方は伸びている新規事業に配属され、少人数のため企画から実行まで任されました。もう一方は安定した既存事業で、決められた業務を丁寧にこなす役割でした。
3年後、前者は「事業の立ち上げを経験し、数字に責任を持った」という実績を語れる状態になっていました。後者も真面目に働いていましたが、語れる経験の幅では差がついていました。本人の努力量ではなく、配属という環境要因が影響した典型的な例だと思います。
ケース2:転職で年収が上がる人、変わらない人
同じようなスキルを持つ方でも、成長市場(伸びている業界・企業)に移った方は年収が上がりやすく、成熟しきった領域に移った方は横ばいになりやすい傾向があります。これは個人の交渉力の差というより、その業界・企業が人材にどれだけ投資できる状態にあるかの違いによる部分が大きいと考えられます。
ケース3:優秀なのに評価されない
能力が高く、周囲からの信頼も厚いのに、社内で評価が上がらないという状況もよく見かけます。掘り下げてみると、成果が評価制度に反映されない仕組みだったり、事業自体に原資がなかったりと、個人ではどうにもならない構造が背景にあることが少なくありません。この場合、努力の量を増やしても状況は変わりにくいでしょう。
これらのケースに共通するのは、結果の差が必ずしも能力や努力の差ではないということです。だからこそ、環境という変数を意識的に見る価値があると考えています。
よくある質問
Q. 転職しないと市場価値は上がらないのでしょうか
A. そんなことはないと思います。今の会社の中でも、成長している事業への異動を希望する、より責任のある役割に手を挙げる、といった形で環境を変えることは可能です。まずは社内で動かせる変数がないかを探すほうが、リスクも小さいのではないでしょうか。それでも状況が変わらない場合に、転職という選択肢が現実味を帯びてきます。
Q. 安定した大企業にいることは、市場価値の観点ではマイナスでしょうか
A. 一概には言えません。大企業には、大規模なプロジェクトを動かす経験、高度な専門性を深める環境、体系的な育成の仕組みなど、そこでしか得られないものがあります。問題になりやすいのは「規模」ではなく、担当領域が狭く固定され、判断の経験が積みにくい状態のほうだと考えています。
Q. スキルを磨くのと、環境を変えるのは、どちらを優先すべきですか
A. 状況によりますが、まず現職で成果を出し、語れる実績をつくることが土台になると思います。実績がないまま環境だけ変えても、良い役割を任されにくいからです。そのうえで、今の環境が成長を制約していると感じるなら、環境の見直しを検討する——という順序が現実的ではないでしょうか。
Q. 市場価値を高める目的は、結局のところ何でしょうか
A. 人によって違ってよいと思います。年収を上げること、選択肢を増やすこと、やりたい仕事に就くこと。共通して言えるのは、市場価値が高い状態とは「自分でキャリアを選べる状態」だということです。会社に選ばれるだけでなく、自分が選ぶ側にも立てる。そのための準備だと捉えると、考えやすくなるかもしれません。
まとめ:磨くことと、選ぶこと
市場価値を高める方法として、スキルを磨くこと、専門性を掛け合わせること、成果を言語化することを挙げました。そのうえでリバナビがお伝えしたいのは、市場価値=会社の成長 × フェーズ × 役割という視点です。
自分を磨く努力は、それが報われる環境と噛み合ったときに、市場価値という形になりやすくなります。もし今、頑張っているのに評価されないと感じているなら、それは能力の問題ではなく環境の問題かもしれません。努力の方向を決める前に、その努力が積み上がる場所かどうかを見てみる。この視点を持つだけでも、選択肢の見え方は変わってくるはずです。

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